次の1km地点。「4分40秒」 「このペースでいい。このまま走り続けよう。」
足早にウォーキングする人や、犬と一緒に散歩する人にはよく会うのだが、僕のよう
に走っている人にはめったに出会わない。スタートして約40分、6時20分頃、
ランナーと出会う。恐らく50代後半の男性で、ほとんどジョキングペースで軽やかに
走っている。すれ違い様に、僕は左手を上げて挨拶する。その男性も同様に手を上げて
から少し微笑む。爽やかな笑顔だ。気持ちの良い朝だ。
天竜船下りの弁天港を通過する。ここから天竜峡まで、観光客は船下りを楽しむ。
冬場は、船に屋根を掛けビニールを張って炬燵船となり営業している。しかし、こんな
早朝には人影はない。弁天港から約300m、弁天橋の手前の国道と合流する地点で
ユーターンする。
ここまでの1kmは4分35秒。「順調だ。」そして、今来たばかりの道またを引き返す。
何台かの車が僕を抜き去り、何台かの車とすれ違う。まだまだ通行量は多くないので心配
はない。時々出会う人達は、冬用の防寒着を身に付けている。たいがい、ビニール製の
オーバーズボンに、厚手のジャンバーを着て、手袋をはめている。
3月初旬の朝はまだまだ寒い。零下に近い気温である。
僕はというと、ランニングシューズはもちろんだが、ロングタイツ1枚で長袖のランニング
シャツの上に薄手のウインドブレーカーを1枚着ているだけだ。ロングタイツは、足にピッ
タリフィットして、お尻もキュッと引き締めてくれる感触が気持ちいい。見た目も引き締ま
って多少スリムに見えるから僕のお気に入りだ。走り出しは多少寒いのだが、10分も走れ
ば温まる。気温が零下を超えない限りはオーバーズボンをその上に履かない。
ただ僕は冷え性である。寒いのが相当苦手だ。手や顔が冷たくなる。薄手の手袋をはめて、
その上からスキー用のグローヴをしている。そして毛糸の帽子を耳が隠れるくらいまですっ
ぽり被っている。なんともおかしな格好に違いない。
僕の場合、寒い日のランニングは、手の指先が異様に冷たくなってしまうのが大きな悩み
だった。足の指先はまるで平気なのに、両手の指先だけが凍りつくように冷え切ってしま
うのだ。毛糸のフワフワの厚手の手袋をはめたり、ビニール製で中に綿が入ったフックラ
した手袋を試してみたのだが、いっこうに指先の冷たさは改善されない。最終的に僕が
選択したのは、伸縮性のある薄手の手袋の上に、スキー用のグローヴを重ねてはめることだ。
何故かこれがベストの選択だったようで、指先の冷えも嘘のように解消された。今では、
冬の早朝のトレーニングもそれ程苦痛ではなくなり、比較的快適に走ることが出来る。
昨年の冬からこのスタイルで走っている。とは言っても「寒いのは、やっぱり苦手だ。」
10km地点の目印が近づく。左手の時計に目をやる。「50分36秒」この5kmを
22分30秒で走っている。「少しペースが速すぎはしないか?」
辺りはほとんど夜が明けたと言っていい。空は少し青く色付いてきた。西に見える風越山
は帯状の霧のような雲が中腹あたりを包み、山頂が少し顔をみせる状態で、何とも幻想的
な姿を見せている。東の空は今にでも太陽が現われそうなほどに、黄色からオレンジ色に
輝く範囲が広くなってきた。